Fig.1 PAUL KLEE, Insula dulcamara, 1938, oil and colour glue paint on paper on hessian canvas, 88 x 176 cm, Zentrum Paul Klee, Berne |
フランス国内では1969年以来となるパウル・クレーの大回顧展がポンピドゥー・センターで開催中だ。250点におよぶ重要なクレー作品が展示され、「イロニー(諷刺)*」をテーマにして作品とクレーの人物像に新しい一面に光を当てている(fig.1)。*シュレーゲル理論での言葉。アイロニーと同義の概念(以下参照)。
イロニー(諷刺)の概念クレーはミュンヘンの美術学校で勉強したのち、イタリアに旅立った。そこでギリシャの古代美術やルネサンス美術の完成した美を目にし、もし自分が古典的な理想主義を追い求めるならば、過去の模倣者になるしかないことを悟った。そして自らの新しい表現方法を模索した結果、ドイツの初期ロマン主義の思想家シュレーゲルが唱えた「イロニー(諷刺)」という概念に遭遇した。イロニーを、高い理想と批判を同時に表現できる新しい表現方法と捉えたクレーは、日記に「敵対するもの(カリカチュアや諷刺)を描くことによって美に奉じる」と書き記した。
<パウル・クレー 作品にイロニーを>展は、8月1日まで開催(火曜日休館)
Fig.2 PAUL KLEE, Der Held mit dem Flügel, Le Héros à l’aile, 1905, Etching, 25,7 x 16 cm, Zentrum Paul Klee, Berne |
人間は空を飛べるのか
《翼をもった英雄》(fig.2)は、肩から一枚だけ翼を生やした屈強な男性を描いている。彼は何度も空を飛ぼうと試みて失敗したせいか、満身創痍である。この作品をクレーが制作したのは、ライト兄弟が世界で初めての有人飛行を成功させて2年後のことである。人間が空を飛ぶことに関して懐疑的な考えを持つクレーは、皮肉を込めてこの作品を描いた。詩的な作品の下に隠されたもの
これまで作品の物語性や詩情豊かな色彩が多くの人々にクレーの芸術の魅力を伝える役割をはたしてきた。しかし、イロニー(諷刺)の観点から作品を見ると、その魅力の下に隠された作品の深みを感じられるだろう。<パウル・クレー 作品にイロニーを>展は、8月1日まで開催(火曜日休館)
ポンピドゥー・センター Centre Pompidou