2015年10月26日月曜日

国家それとも市民?芸術品購入の資金源

レンブラント作品をめぐりオランダとフランスが政治決着


オランダとフランスがレンブラントの名作を「共同購入」することになったというニュースが、欧州のアート業界の関心を集めている。

その作品とは、17世紀オランダ黄金時代の巨匠・レンブラントによる2枚1組の肖像画(fig.1)。モデルはオランダ上流階級の若い男女で、1634年、結婚を記念して描かれたものだという。19世紀末、フランスの富豪・ロートシルト家に売却され、現在に至るまで同家のコレクションの一部であり続けた。
この作品が1億6000万ユーロ(約220億円)で売却されることとなり、オランダ・国立美術館は2作品両方を所有するため資金調達を目指したが、同時にフランス政府も、ルーヴル美術館のコレクションに加えるため、片方のみの購入を画策したという。
fig.1 レンブラント Maerten Soolmans と Oopjen Coppit の肖像画


結局、オランダ側は全額を集めることができず、オランダとフランスの政府間交渉の結果、それぞれが半額の8000万ユーロ(110億円)で片方ずつ所有するという「政治決着」がはかられた。

結局、ペアで展示されるべき2作品を2カ国で分け合う結果となったが、今後、片方をお互い貸し出しあって必ず「カップル」として展示する約束だという。
高額な美術品の購入はもちろんのこと、文化活動には資金不足がつきもの。今回話題となったレンブラント作品は、2カ国でいわば「共有」する形で決着したが、昨今の財政難で国庫からの支出は益々困難になっている。そこで注目を集めているのがインターネットを活用し、一般市民から広く浅く資金を集める「クラウド・ファンディング」だ。



美術品購入に有効なクラウド・ファンディング


この「クラウド・ファンディング」の手法を使った寄付キャンペーンが、現在、パリの2つの美術館によって進行中だ。



ルーヴル美術館《矢の切れ味を試すクピド》

fig.2 ジャック・サリー《矢の切れ味を試すクピド》

まず、ルーヴル美術館が予定する大理石像《矢の切れ味を試すクピド》(fig.2)購入のためのクラウド・ファンディング。ルイ15世の愛妾、ポンパドゥール夫人が彫刻家ジャック・サリーに注文したもので、ぼっちゃりした指先で矢の先に触れる可愛らしいしぐさに目を奪われる。

《矢の切れ味を試すクピド》募金ウェブサイト(日本語)



ギメ東洋美術館「甲冑」



もう一件は、アジア美術を専門とするギメ東洋美術館が購入を目指す日本の「甲冑」。17世紀に制作されたもので大変保存状態もよい逸品とのこと。

「甲冑」購入キャンペーン・サイト(仏語のみ)



いずれも、美術館の公式ホームページ上に特設ウェブサイトが置かれ、作品情報、クレジットカードの決済フォームのほか、資金の集まり具合が一目でわかるようになっている。
寄付するメリットとして、募金額の多寡によって、美術館の無料チケットから鑑賞のための夜会への招待まで、様々な特典が準備されている。美術ファンにとっては、国宝級の傑作を身近に感じるまたとない機会ともいえそうだ。

2015年10月18日日曜日

芸術家としてのディック・ブルーナ

Illustration Dick Bruna © copyright Mercis bv, 1997

オランダを代表するかわいいウサギの女の子のキャラクター、ミッフィー(うさこちゃん)。60年前の1955年6月21日に絵本「ちいさなうさこちゃん」が出版されて以来、これまで世界中の多くの子どもたちに親しまれてきた。このミッフィーを世に送り出したのはオランダ人のディック・ブルーナだ。現在、ミッフィーの誕生60周年を記念して「ディック・ブルーナ アーティスト」展がアムステルダム国立美術館で開催されている。


ブルーナは、幼い息子が夜寝る前に、かつて息子と一緒に見たウサギの話を聞かせていた。このウサギが、のちのミッフィーである。ワンピースを着たウサギの姿が頭に浮かんだのは、マティスの作品を見たときであったと、後年、ブルーナは語っている。
ブルーナがマティスの作品に初めて触れたのは、家業である出版社を継ぐための研修としてパリを訪れた時であった。仕事の合間を縫って美術館や画廊に足しげく通い、そこに並んだマティスやレジェ、ピカソのなどの作品を驚きの目で見つめた。それまでゴッホやレンブラントなどの画集に親しんでいたブルーナは、彼らが用いる抽象的でシンプルな形と単一の色彩で塗られた色面、またそれらを形作る力強い線に衝撃を受けたのである。


Dick Bruna at the Rijksmuseum in 2011.
Photo: Rijksmuseum
一時期、ブルーナはマティスの滑らかで流れるような線を自分のものにしようと努力を重ねていた。「あのころのデッサンを見ると、マティスを模倣することなく、私が彼のようになろうとしていたことが分かるだろう」と、ブルーナは振り返る。彼らの作品の間には丸みを帯びた滑らかな描線のような明らかな類似点が見られるが、もちろん相違点もある。マティスはさらさらとよどみなく筆を走らせ、一本の線のなかでも太さや濃淡が変化するが、ブルーナは確実に輪郭を捉えようと慎重に筆を進めている。

マティスに線を倣ったブルーナであるが、その他にもピカソやブラック、レジェなどの明快な線描や最小限の色彩での表現に創作意欲を掻き立てられた。また、ミッフィーの絵本を特徴づける正方形のフォルムは、オランダの芸術運動デ・スティルに参加していたヘリット・リートフェルトの影響である。会場では、これらの画家たちの作品とブルーナの作品を並べて展示し、絵本作家ではなく、画家としてディック・ブルーナの画業を捉えなおそうとしている。

「ディック・ブルーナ アーティスト」展は11月15日まで。
アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum
Museumstraat 1
1071 CJ Amsterdam
The Netherlands
www.rijksmuseum.nl/en
開館時間:
9:00-17:00 年中無休