ダミアン・ハーストが常にセンセーショナルなのは、その強烈なインパクトに加えて、まるでゲームのようにその作品価値を金額に置き換えるからだろう。
今回のテートモダンでの個展は、日本でもその情報は、話題になっていた。知名度ある美術専門誌、美術手帖でもその特集を組んでいたことでもその注目度合いを推測することが出来る。
ちなみに、渋谷に先日オープンしたヒカリエという商業施設に小山登美男ギャラリーが入ったが、このこけら落としとなる展覧会はハーストのスポットペインティング展であり、その情報にあいまって、本個展の情報は流布していた。
今回の個展では、お金とアートに一種反抗しながらも、実はその価値を頼りに巧妙にバランスをとる代表作が一同に並ぶ。腐りゆく牛の頭、その頭からわき出す蛆、そして蠅が生まれ、生まれた蠅は電撃殺虫機にぶつかりジリジリと音を立てながら焼け死んでゆく。死から生み出された生が目の前で一瞬にして死に向かう。十分な嫌悪感で強烈なインパクトを鑑賞者に与える。だがハーストの作品はそれをインパクトだけに終わらせない。このインパクトは、生と死を巡る、アートの根本的なテーマと直結し、さらには、その作品が貨幣価値に置き換わるアートマーケットにつながる。
発表当時は、多くの批判を浴びたことであろう。ただその発表からすでに15年も時を経てしまえば、「一度は見たい、あの作品」と思いだされるほどにそのビジュアルは広く知れ渡り、まさに一時代を築いた寵児であることは間違いない。その頂点を築くまでの作品をシンプルな構成かつ、高いクオリティーで提示し、ダミアンの代表作を存分に楽しめる展覧会であることには異論はない。
ただ、誰もが知っているダミアン・ハースト以上を知ることができたか、と聞かれれば、それは否と答えるほかない。初期から貫かれている明確なコンセプトの始まりやそれが作品として昇華されるプロセスやクオリティーの高い作品を量産する生産体制の秘密などは、今回の展示で見つけることは出来ない。みんなが知っているあの作品にまつわるアイディアや発想をかいま見せてくれるような内容を期待してしまったが、まだまだ商品価値が落ちない売れっ子作家にとってみれば、TATEといえどもまだまだ、その価値を上げる一ステップに過ぎないのであろう。その作家性を検証するような大回顧展はまだまだ先に取っておこうということなのかもしれない、それであれば、今回の展示も納得できる。次回の大回顧展まで楽しみはもう少し取っておくことにしよう。
テート・モダン ハースト展は9月9日まで開催。
http://www.tate.org.uk/whats-on/tate-modern/exhibition/damien-hirst
テート・モダン Tate Modern
Bankside London SE1 9TG
http://www.tate.org.uk
Every Friday, 10.00–22.00
http://www.tate.org.uk
Opening times:
Saturday – Thursday, 10.00–18.00Every Friday, 10.00–22.00