2012年5月15日火曜日

珠玉の1点公開 -ゴッホ美術館-


Pollard Willow, July 1882
Van Gogh Museum, Amsterdam

アムステルダム、ゴッホ美術館でこの度、新しく購入したゴッホの水彩画Pollard Willowが公開された。作品購入は、ゴッホ美術館としては5年ぶりのことで、水彩とは言え、ゴッホの真作であるこの1点は、美術館にとって大きな作品追加となる。アクセル・ルガー館長は、この公開に当たり、ゴッホがハーグに滞在している間に手がけた作品としてはとても重要な作品の一つであり、美術館として購入できればしたい作品の一つになっていたものだとコメントしていた。

1882年夏以前、ゴッホは鉛筆やペンを多用しており、色彩を用いることはあまりなかったようである。しかし、この年の7月になると、水彩で素描を描くようになると共に、これまでの肖像から風景へ、習作スケッチから素描、さらにはモノクロから色彩へと変化が現れてくるようになる。いわば、ゴッホを語る上で重要なポイントで描かれた作品ということができる。

Letter with letter sketch from Vincent to Theo van Gogh, 31 July 1882
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
この水彩画は、運河か川に沿って道が伸び、その傍らに頭の部分を切り取られた柳の木(Pollard Willow)がある風景を捉えている。遠景には鉄道駅が見えていて、小さく人の姿も見分けることができる。空は垂れ込めるような雲で覆われ、オランダ特有の憂鬱な天候が表現されている。ゴッホは、弟テオへの手紙の中で、この作品に関わることを伝えており、1通にはゴッホの家の近くの道に柳の木があることに言及し、さらに別の手紙では、描いた水彩画を自分がとても気に入っていることを伝えている。ゴッホ美術館は、これらのゴッホが本作について述べた手紙を所蔵しており、そのこともあって、今回の購入は意欲的だったといえる。



作品は、5月10日から7月10日まではゴッホ美術館の地階で、この当時の他の油彩や関連する手紙などと一緒に展示されている。そして、ゴッホ美術館が改装工事に入る9月以降は、アムステルダムのエルミタージュ美術館別館での展示になるが、本作品は約2ヶ月間のみの公開になるもよう。その後は、水彩であるため、しばらく作品は「休憩」に入る。


今回のゴッホ美術館に限らず、最近は、1点だけを公開する作品展が時々目につく。2月にはマドリッドのプラド美術館で、修復をしたばかりのブリューゲルの作品、The Wine of Saint Martine’s Day を1室に飾って公開。2010年後半に購入した作品で、修復の部分や方法などについてのパネル映像と共に展示していた。またロンドンとスコットランドの両ナショナルギャラリーが最近購入したティツィアン作のDiana and Callistoを7月までロンドンで公開している。この作品は、両ギャラリーが2009年に購入したDiana and Actaeon と対をなす作品。こうした「珠玉の1点」展は、大掛かりな作品展の陰に隠れてしまいがちであるが、美術館と市民との繋がりのためにも、購入作品の公開や、修復結果の報告という目的で、これからも多くなるのではないだろうか。


ゴッホ美術館 Van Gogh Museum
Paulus Potterstraat 7 Amsterdam
(アムステルダム中央駅からトラム 2、5番, Van Baerlestraat駅下車)
http://www.vangoghmuseum.nl/(日本語ページ)
開館時間:
美術館 10:00-18:00 (金曜日は22:00まで)
入館券売場 10:00-17:30 (金曜日は21:30まで)
ミュージアムショップ 10:00-17:45(金曜日は21:45まで)
レストラン 10:00-17:30 (金曜日は21:30まで)

*2012年9月29日から2013年4月25日までの期間、建物の改装につき美術館のコレクションはアムステルダムのエルミタージュ美術館別館に移動、展示されます。