2014年12月12日金曜日

「レンブラント―晩年の作品」展


世界中で毎年多くの展覧会が開かれているが、時に、人生に一度しか見られない展覧会がある。現在、ナショナル・ギャラリーで開催中の「レンブラント―晩年の作品」展は間違いなくその中のひとつである。

画家の晩年に焦点を当てた展覧会には、自分の人生の終わりを意識して不安になる一人の人物像が浮き上がってしまう。レンブラントは金銭的な問題を抱え、正式に婚姻を結んでいない内縁関係の女性について教会から追及されてしまう。1656年には自己破産をし、豪邸と収集していた美術品や骨董品、そしてアトリエを手放さなければならなくなった。このような時期において制作意欲が削がれるだろうと想像することは難くない。しかし、展示された作品群からはそのような印象は全く受けない。意欲的に制作に取り組み、魂に訴えかけるような新しい芸術を模索する画家の姿が見えてくる。


展覧会はレンブラントが生涯にわたって取り組んだ自画像から幕を開ける。全80点の自画像から晩年に制作された7点が展示されている。《二つの孤のある自画像》(c. 1665-1669、fig.1)は自己破産して10年経ってから描いたものであるが、そこに描かれた絵筆とパレットを持って胸を張る姿からは、画家としての矜持が見てとれる。一方、亡くなる年に描かれた《63歳の自画像》は手を組み合わせてこちらに視線を向けている。この作品をX線撮影したところ、初めの構想では絵筆を持っていたことが分かった。温かな光に包まれたこの作品には、画家としての誇りも脱ぎ捨てた、より深いレンブラントの内面が表れている。

この展覧会は、2015年2月12日から5月17日までオランダ・アムステルダム
国立美術館(写真)に巡回。
この展覧会には有名作品だけでなく、素晴らしい作品にもかかわらずこれまであまり知られてこなかった作品も展示されている。《バタビア人の陰謀》(c. 1661-1662、fig.2)はレンブラントが描いた中で最大の作品(5x5m)である。この作品には「光と影の画家」と称されるレンブラントの力が遺憾なく発揮されている。人々の背に隠れているろうそくの金色の光が白いテーブルクロスに反射し、反徒たちの顔を下から照らしている。ほとんど褐色の絵の具だけで描き出したことも驚異的である。

この作品はバタビア人がローマ帝国に対して起こした反乱をたたえて描かれた作品群の一枚で、オランダ人たちはこのバタビア人たちが起こした反乱を、スペインからの独立をはかって1648年に終結する80年戦争を戦った自らの姿を重ね合わせている。しかしながら、レンブラントのこの作品は市庁舎に数ヵ月飾られただけで降ろされた。その理由は伝統的に隠されていた主人公のガイウス・ユリウス・キウィスの隻眼を描いたためとも言われているが、はっきりとはしていない。しかし、作品は返却され、支払いもなされなかった。その後、レンブラントはこの巨大な作品を売却するために約4分の1の大きさに切り取ったため、現在のサイズ(196×309㎝)になった。

本展覧会には自画像、歴史画、肖像画の他に内縁の妻ヘンドリッキェをモデルに何気ない日常生活の中に聖書の一節を紛れ込ませた作品など油彩画40点、素描20点、版画30点が出品されている。「レンブラント―晩年の作品」展は2015年の春には、レンブラントが生まれたオランダのアムステルダムにある国立美術館に巡回する。

「レンブラント―晩年の作品」展
2015年1月18日までロンドン・ナショナル・ギャラリーにて開催。
2015年2月15日から5月17日まで、アムステルダム国立美術館にて巡回。
ロンドン・ナショナル・ギャラリー The National Gallery, London
Trafalgar Square,
London WC2N 5DN
The United Kingdom
+44 (0)20 7747 2885
www.nationalgallery.org.uk
開館時間:
月—木、土、日 10:00—18:00
金  10:00—21:00
休館日 1月1日、12月24-26日