2018年4月30日月曜日

「フェルナン・レジェ」

Fig. 1 Fernand Léger, Les Loisirs-Hommage à Louis David, 1948 – 1949, Huile sur toile, 154 x 185 cm, Achat de l’Etat, 1950, Attribution, 1950, numéro d’inventaire : AM 2992 BIS P, Collection Centre Pompidou, Paris - Musée national d’art moderne - Centre de création industrielle, © Centre Pompidou, MNAM-CCI/Jean-François Tomasian/Dist. RMN-GP, © SABAM Belgium 2018


20世紀前半に活躍したフランスの画家フェルナン・レジェ。ベルギー・ブリュッセルのBOZARにて、フェルナン・レジェの大規模な展覧会が開かれている。約100点の作品と膨大な資料を展示し、絵画以外にも版画、陶器、舞台装置、映画、建築など幅広い分野において作品を残し、芸術、デザインのあらゆる分野に意欲的な実験的活動を展開したレジェを多方面から分析する。

キュビスムを超えて

ピカソ、ブラックとともにキュビスムの画家とみなされるレジェだが、キュビスムの作風から離れると、太い輪郭線と単純なフォルム、明快な色彩を特色とする独自の様式を築いた。《余暇:ルイ・ダヴィッド讃》(fig.1)は限られた数の原色を明快な輪郭線で取り囲んだ、ポップアートを予感させる作品だ。サイクリングや花摘みなど、郊外で娯楽を愉しむ庶民の姿が描かれている。

機械文明と人間の調和
レジェはもともと画家を志す前に建築製図工の仕事をしていたことから建築への造詣も深く、ル・コルビュジエら同時代の建築家とも親交を持ち、彼らが設計した建物の壁画を担当、また自身の作品にも建築物や鉄骨・配管などの建築資材を題材として取り入れている。多くの重機を用いて建設される高層建築とそこで働く人間の姿は、近代の機械文明とその中で生きる人間生活の調和を求めたレジェの理想の表れでもあった。本展覧会では1924年に踊る機械をコンセプトに人体と機械の映像をコラージュした実験映画「バレエ・メカニック」を含めた初期作品から、無機質な鉄骨と労働者を描いた晩年の大作《建築業者(決定版)》まで一貫したレジェの理想の世界を伺い知ることができる。

「フェルナン・レジェ」展は6月3日まで


ボザール BOZAR – Centre for Fine Arts
Rue Ravensteinstraat 23
1000 Brussels
Belgium
+32 (0)2 507 82 00
https://www.bozar.be/en
開館時間:
火、水、金‐日曜 10:00-18:00
木曜 10:00—22:00
休館日 月曜日、12月25日、1月1日

2018年3月29日木曜日

チャールズ一世、王とコレクター



17世紀のイングランド国王であったチャールズ一世は、当時、世界的に有名なアート・コレクターでもあった。その所蔵作品点数は、絵画約1500点と彫刻約500点に上り、ティツィアーノ、ホルバイン、デューラー、ルーベンス、ヴァン・ダイクなどの作品が多くを占めていた。清教徒革命で処刑された後に彼のコレクションは売却されるが、王政復古の後、いくつかは買い戻されている。しかし、ルーブル美術館やプラド美術館など世界各地に散逸している作品も多い。今回初めてそうした作品をいくつか「里帰り」させ、既に買い戻された作品と合わせた150点による<チャールズ一世のコレクション展>を、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで開催している。

ヴァン・ダイクが描いたチャールズ一世
展覧会の中核をなすのは、ヴァン・ダイクが描いた肖像画群である。ヴァン・ダイクは優雅な肖像画を得意とし、くつろいだ雰囲気で優雅さと気楽さとが入り混じった表現で肖像画を描いて貴族的肖像画の範例を打ち立てた。後半生を国王チャールズ一世の宮廷画家として過ごし、国王の肖像画を40点ほど描いた。今展覧会には《チャールズ一世とヘンリエッタ・マリア、王太子チャールズと王女マリーの肖像画》、2枚の騎馬肖像画《馬上のチャールズ一世とサン・アントワープの領主の肖像》《チャールズ一世騎馬像》などが展示され、その中でも最も印象的なのは《チャールズ一世の肖像》(fig.1)である。田園地帯を散策したのち、短い休憩をとるために馬から降りたばかりのチャールズ一世はくつろいだ様子でこちらを見ている。威厳に満ちた国王というよりも優雅さと気楽さとが入り混じった穏やかな人物として描かれている。

国王のコレクションが育んだイングランド美術
チャールズ一世が愛好し収集したマンテーニャやティツィアーノ、ルーベンスらの作品は、同時代の芸術家たちの創作意欲を触発し多くの傑作を生みだすきっかげとなった。チャールズ一世のコレクションを概観すれば、活気あふれる17世紀イングランドのアートシーンが明らかになるだろう。

「チャールズ一世、王とコレクター」展は2018年4月15日まで


ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ Royal Academy of Arts
Burlington House, Piccadilly,
London, W1J 0BD
The United Kingdom
+44 (0) 20 7300 8090
https://www.royalacademy.org.uk/
開館時間:
月—木、土、日 10:00-18:00
金       10:00—22:00
休館日 なし

2018年2月20日火曜日

仮面の戦士/武士と合戦の晴れ舞台


オランダのライデンにあるシーボルトハウスでは、5月27日まで「仮面の戦士/武士と合戦の晴れ舞台」展を開催している。能と武家文化の結びつきを、仮面を鍵にして明らかにしていく趣旨の展覧会である。
展示室に入ると、まず、きらびやかな唐織りの能装束と男女の能面が目に飛び込んでくる。右壁には華やかな女性ものの着物二枚と微笑をたたえた若い女性の面が並んでいる。一方、反対側には藍地に金糸で雷電と鶴の模様を縫い上げた着物と、武神として讃えられる力強い三日月の能面や、深い皺と植毛された眉や髭が特徴的な翁の面がある。そして、能装束の壁の奥には二体の甲冑が堂々と控えている。その甲冑の佩楯(はいだて)部分には着物の端切れが使われ、兜にはめ込まれた甲冑面は武人の三日月のように力強く、開いた口からは猛々しい雄叫びが聞こえるようだ。


Fig.2 Helm en masker, Ressei-men (suji kabuto),
privécollectie
能と武家社会
14世紀になり、室町幕府の将軍、足利義満が観阿弥・世阿弥を庇護するようになると、能は武家社会と強いつながりを持つようになる。その後、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と能を好む有力者が続いたことでさらにその結びつきが強まった。そのようななかで生まれたのが甲冑面(面頬、頬当て)だ。この甲冑面は顔面、特に両頬から顎を保護する防具であるが、能楽に登場する般若のように鬼気迫る表情をしている。



武士に圧倒的な人気があった烈勢面
16世紀後半には、武士たちの間で激しい表情をした烈勢面に人気が集まった。鋭く刻まれた皺が特徴で、しばしば髭や眉が植毛されている(fig.2)。それに影響を与えたのが能楽の悪尉(あくじょう)の面である。悪尉は強く恐ろしい表情をした翁の面で、圧倒的な攻撃力と超自然的な強さを表現し、多く老神・怨霊などに用いられてきた。仁王のように激烈な表情をもつ烈勢面は、その表情で敵を威嚇し、また身に着けた自分自身の闘志を鼓舞する役目も担っていた。

「仮面の戦士/武士と合戦の晴れ舞台」展は2018年5月27日まで

シーボルトハウス Japanmuseum SieboldHuis
Rapenburg 19
2311 GE Leiden
The Netherlands
http://www.sieboldhuis.org/ja/

開館時間:
火曜日-日曜日 10:00-17:00
休館日 月曜日、1月1日、4月27日、10月3日、12月25日

2018年1月8日月曜日

モディリアーニ


Fig.1 Amedeo Modigliani, Nude, 1917, Private Collection

酒と麻薬に浸る退廃的な生活を送り、35歳の若さでこの世を去った画家、モディリアーニ。彼の作品100点を集めた回顧展が、ロンドンのテイト・モダンで2018年4月2日まで開催されている。

彫刻的アプローチ
モディリアーニの作品のうちで最も知られているのは裸婦像(fig.1)だろう。女性たちは単純化したフォルムで哀愁と官能的な美しさを湛えている。このフォルムの探求は彼が貧困のうちに健康を害して断念した彫刻作品で培われたものだ。1909年から1916年まで、アルカイック期のギリシア彫刻や、アフリカの仮面に影響を受けた作品を断続的に制作していた。1916年にふたたび絵画に専念した画家は、のみで切り出したような線描を絵画に持ち込んだ。

Fig.2 Amedeo Modigliani, The Little Peasant,
c.1918 ©Tate
前衛画家モディリアーニ
1916-1917年の裸婦のシリーズは、この時期の絵画への意欲的な取り組みの表われといえる。モディリアーニは、ピカソやキスリング、デ・キリコらとともにグループ展に名を連ね、同時代の前衛画家のひとりと目されるようになり、生前唯一の個展「モディリアーニの絵画と素描展」を画廊ベルト・ヴェイユで開いた。しかしながら、開幕初日、ショーウィンドーに展示された裸婦像が「わいせつ」だとして警察に撤去を命じられ、批評家からの反響も全くといってよいほどなかった。

南仏の穏やかな光のなかで
1918年、第一次世界大戦の戦火とスペイン風邪の脅威を避け、モディリアーニは画商ズボロフスキに導かれてニースに赴く。南フランスで出会う農夫らをモデルに描いた作品(fig.2)には、それまでにない素朴さや穏やかさがうかがえる。優美な描線と透明感のある明るい色彩との調和を通じて、独特の精神性を帯びるようになっていく。静穏で古典的なものへの憧憬はピカソをはじめ前衛の芸術家に広く共有された姿勢でもあったが、モディリアーニにおいては、少年期にその心を強くとらえたシエナ派など、13-14世紀のイタリア美術によるものであった。

「モディリアーニ」展は2018年4月2日まで

テート・モダン Tate Modern
Bankside
London SE1 9TG
United Kingdom
www.tate.org.uk/visit/tate-modern

開館時間:
日曜日-木曜日 10:00-18:00
金曜日、土曜日 10:00-22:00
休館日なし

2017年12月1日金曜日

反映―ファン・アイクとラファエル前派







Fig.1 Jan van Eyck, Portrait of Giovanni (?) Arnolfini 
and his Wife and ‘The Arnolfini Portrait’,1434, Oil on oak,
82.2 x 60 cm, National Gallery, London
© The National Gallery, London
鏡をテーマに、ファン・アイクがラファエル前派に与えた影響に焦点を当てた展覧会「反映―ファン・アイクとラファエル前派」がロンドン・ナショナル・ギャラリーで開催されている。

ラファエル前派とファン・アイク
15世紀にヤン・ファン・アイクが描いた《アルノルフィーニの夫妻》(fig. 1)に魅せられた若い画家たちが、19世紀のイギリスにいた。ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの三人である。彼らはラファエロ以前のイタリアやフランドル芸術のもつ誠実で精神的な在り方を理想に掲げてラファエル前派を結成し、その理想を《アルノルフィーニの夫妻》に見出した。

描かれないはずの世界
彼らはファン・アイクから深く豊かな色彩や事物の精緻な質感描写など多くのことを学んだ。その中で最も魅了されたのが、《アルノルフィーニの夫妻》で使用された絵画空間の中にもう一つ別の世界・空間を作り出す道具としての鏡である。ファン・アイクは背景にある丸い鏡のなかに自分の姿を描き、画家自身が夫妻の婚礼に立ち会った証人であることを示している。

Fig.2 William Holman Hunt, The Awakening Conscience,
1853, Oil on canvas, 76.2 x 55.9 cm
© Tate, London (T02075)
鏡に魅了されたラファエル前派
多くのラファエル前派の画家たちは、鏡のある室内を描いた。ハントの《良心の目覚め》(fig.2)では庭園を映し出す大きな鏡がある。愛人の膝に座っていた女性は視線の先にある庭を見たことによって、突然、良心に目覚め、愛人の膝から立ち上がって自堕落な生活から抜け出そうとしている。ラファエル前派の画家たちが好んだ「アーサー王伝説」に出てくる「シャロットの乙女」の物語でも鏡が重要な役割を担っている。シャロット姫は外界を直接見ると死ぬ呪いをかけられ、鏡を通してしか外の世界を見ることができないのだ。ジョン・ウィリアムス・ウォーターハウスが描いた外界を映す鏡には大きな亀裂が入り、恋しい男性を見たいと願ったばかりに死ぬ運命をたどるシャロットが暗示されている。


「反映―ファン・アイクとラファエル前派」展は2018年4月2日まで


ロンドン・ナショナル・ギャラリー The National Gallery, London
Trafalgar Square
London WC2N 5DN
The United Kingdom
+44 (0)20 7747 2885

www.nationalgallery.org.uk
開館時間:
月—木、土、日 10:00-18:00
金          10:00—21:00
休館日:
1月1日、12月24-26日

2017年10月24日火曜日

フランスのポンピドゥ・センター・メッスにて日本の建築展を開催



Fig.2 DumbType, S/N, Performance photo: Yoko Takatani

フランスのポンピドゥ・センター・メッスで開催されている建築展「Japan-ness: 1945年以降の日本の建築と都市計画」は、118組の日本の建築家・作家たちを通じて、戦後から現代までの日本建築史を総括するヨーロッパで初の大規模な展覧会である。


Takeshi Hosaka, Restaurant Hoto Fudo,
Fujikawaguchiko, 2009© Takeshi Hosaka Architects
© Nacasa & Partners Inc. / Koji Fuji
「Japan-ness」
「Japan-ness」(「日本的なもの」)は、磯崎新が2003年に出版した著書『建築における「日本的なもの」』で示した概念である。磯崎は「日本的なもの」は伊勢神宮の式年遷宮に象徴される、変わることのない一定の価値と再解釈によるものとし、戦後の日本近代建築を日本になだれ込んできた西欧モダニズムを「日本的なもの」で変形し受容した結果だとした。
戦後の建築史
会場では、丹下健三の広島平和記念資料館、1946年の東京オリンピック国立代々木競技場、そして大阪万博のパビリオンなどの時代時代を象徴する大型建造物をはじめ、実際には日の目を見なかった都市計画の模型なども多数展示している。また、住宅では人口増加および都市部での人口過密などによって起こる問題を新しい発想や材料によっていかに解決していったかも示されている。


 
Fig.1 Tadanori Yokoo, Motorcycle, 2002 (1966),
Peinture acrylique sur toile, 53 x 45,5 cm
Shun Kurokochi
「ジャパニーズ・シーズン」の3つの展覧会
日仏友好160周年に当たる2018年にパリを舞台に開催する「ジャポニスム 2018」に先駆けて、フランスのポンピドゥ・センター・メッスでは「ジャパニーズ・シーズン」と銘打って、日本の芸術文化を総合的に紹介する三つの展覧会を開催する。9月に始まった建築展「Japan-ness: 1945年以降の日本の建築と都市計画」を皮切りに、「ジャパノラマ Japanorama: 1970 年以降の新しい日本のアート展」では大阪万博が開催された 1970 年前後からの日本の現代美術、視覚文化を紹介(Fig.1)し、来年1月には映像・音響・パフォーマンスなどによって国内外に高い評価を獲得したダムタイプ(Fig.2)をフランスで初めて紹介する「ダムタイプ:超感覚的なオデュッセイア」が始まる。

ポンピドゥ・センター・メッス Centre Pompidou Metz
1 Parvis des Droits-de-l’Homme
57020 Metz
France
http://www.centrepompidou-metz.fr/en/welcome
開館時間 (11月1日から3月31日まで):
水—月曜日 10:00-18:00
開館時間 (4月1日から10月31日まで):
月、水、木曜日 10:00-18:00
金—日曜日 10:00-19:00
休館日:
火曜日

2017年10月2日月曜日

ディオールの創業70周年を祝う回顧展

© Emma Summerton for “Christian Dior Designer of Dreams”

7月5日から2018年1月7日まで、ディオールの創業70周年を記念する展覧会がパリ装飾芸術美術館にて開催されている。今回初めて、300点を超えるオートクチュール・ドレスのコレクションが一堂に会し、アトリエで使用された生地、ファッション写真、数百点の資料 -イラスト、スケッチ、手紙、メモ、広告など-と併せて展示されている。

ファッションを変えた「ニュールック」
クリスチャン・ディオールは1947年春夏コレクションで「ニュールック」を発表して以来、20 世紀ファッション界の中心的存在となっている。バストとくびれたウエストを強調した上半身に、ふんわりとしたスカートを合わせた女性的なシルエットが「ニュールック」の特徴である。第二次世界大戦の爪痕も色濃い当時は、タイトスカートのようなストイックで力強いシルエットが台頭していたが、こうした男性的なファッションを覆したのが彼だった。

ディオールに流れる美の精神
アール・ヌーヴォーの収集家でもあったクリスチャン・ディオールが所有する美術品からは、ディオールのドレスに通ずる美学やデザインを感じ取ることが出来る。ディオールの芸術に対する造詣の深さは、彼の後にディオールのアーティスティック・ディレクターを務めた6人、イヴ・サンローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモン、そして今日のマリア・グラツィア・キウリまで引き継がれている。訪れる人々は、年代順に構成された展示に沿って1947年から2017年へと時代をたどることによって、数十年におよぶディオール精神の遺産と、フランスを象徴するメゾンとしての世界的な名声とを目の当たりにするだろう。

「クリスチャン・ディオール」展は2018年1月7日まで(月曜日休館)

装飾芸術美術館 Musée des Arts décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
France
http://www.lesartsdecoratifs.fr/en/
開館時間:
火—日曜日 11:00-18:00 (企画展のみ木曜日は21:00まで)
休館日:
月曜日