2013年11月12日火曜日

トゥデイズ・アート2013

図2 会場の一つである元内務省

オランダのハーグ市で、秋恒例のメディア・アートのフェスティバル、「TodaysArt」(トゥデイズ・アート)が今年も9月27、28日の週末に開催された。

会場の一つ、ハーグ市役所内アトリウムでは、開会式に続き、電子音楽界の先駆者、モートン・サボトニックが、代表作「シルヴァー・アップルス・オブ・ザ・ムーン」を、デジタル/アナログ機材を駆使したアナログシンセサイザーを用いて、メディア・アーティストLillevan と共に披露した。

図1 Ryoji Ikeda – test pattern
日本人アーティストの参加も特筆される。

初日には、蛍光灯を楽器として扱うことで知られる伊東篤宏とダイアモンド・バージョンのコラボレーションが披露された。二日目は、コンピューター情報(データ)を音源と映像に転換することで有名な池田亮司がトゥディズ・アートに初登場し、作品「テストパターン」を披露。淡々と繰り返されるノイズ音源と、それに連動して高速で点滅する白黒の縞の映像が「氷の宮殿」とも呼ばれる市役所(リチャード・マイヤー設計)の建物に映えた(図1)。

市役所に隣接する元内務省の19階建のビルがもうひとつのメイン会場である(図2)。低層階には特設ステージとバーが設けられ、 内務省時代には出入りが厳しく制限されていた場所で、一般客が音楽にあわせて踊るめずらしい光景が朝まで続いた。高層階は、そのままアートの展示スペースとなり、観客は広大なビルの中を探検するように巡回した。

二つの会場をつなぐように配置されたのはコッキー・エイクの作品であり三つ目の会場でもある「Sphæræ」。プラネタリウムのような球状の天井が特徴で、中では音楽と光を組み合わせた作品が繰り返し上演された(図3)。

図3 会場'Sphæræ' by Cocky Eek
作品: Yamila Ríos + Joris Strijbos – COVEX


二日間の間に行われた様々なパフォーマンスを通して、日常にありふれた物、音や光がアーティスト達の手によって分解、拡張、増幅され、次々に芸術作品に昇華されていった。

2005年に初めて開催されて以来、経済環境に左右されながら独自のスタイルを保とうと模索し続けてきたトゥデイズ・アート。今回が9回目だが、文化予算の削減が続く中での開催は、今後容易ではないだろう。しかし市役所、元内務省という公的な施設にバーやダンスフロアという本来の目的とは間逆の異空間を作り出す発想は注目に値する。主催者側は今後日本を含む海外への進出も視野にいれているという。

日本テレビヨーロッパもトゥデイズ・アートを支援している。
* トゥデイズ・アートの写真はNTVヨーロッパFacebookページでご覧頂けます。




トゥデイズ・アート TodaysArt

2013年10月15日火曜日

オスカー・ココシュカ展

Museum Boijmans Van Beuningen, photo Hans Wilschut

オランダのロッテルダムにあるボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館で「オスカー・ココシュカ―人々と動物の肖像」展が開催されている。この展覧会は絵画や素描など148点が展示されている。クリムト、シーレと並び、近代オーストリアを代表する画家の一人であり、表現主義に分類されることが多いココシュカであるが、彼自身はウィーン分離派、「青騎士」、「ブリュッケ」などの当時の芸術運動やグループには参加せず、独自の道を歩んだ。

ココシュカは生涯に素描、リトグラフを含む多数の肖像画を数多く制作し、代表作の多くも肖像画である。彼はモデルのかしこまった姿よりも、普段の姿を描くことを好んだ。たとえば、友人と会話を交わしたり、食事をしていたり、子どもなら遊びに夢中になっている様子である。そして、観察によって得た特徴的な身振りや個性的な表情をカンバスに描きとめた。また、ココシュカは1966年にあるテレビ番組のインタビューにおいて、「空間における人のオーラ」に興味があると語っている。彼の作品中の人物はまるで身体から光を発しているように見え、人物の内面が彼を取り囲む周辺空間に放射しているようだ。



1926年から翌年にかけて、動物がココシュカの強い興味の対象となった。彼は当時滞在していたロンドンのリージェント・パークにある動物園で、許可を得て営業時間外に制作を行った。ティゴン(ライオンとトラを掛け合わせた雑種)やワニ、シカなどが描かれた。そのうちの一点に《マンドリル》がある。ココシュカは動物園を訪れた際に毎回バナナを与えているにもかかわらず、マンドリルは彼に馴つくことはなく、むしろ歯をむき出しにして威嚇し続けた。ココシュカはマンドリルのなかに決して飼いならされることのない真の獣の姿を感じとり、彼を現実の小さな檻の中ではなく、本来の居場所である自然豊かなジャングルのなかに描いた。

ココシュカの芸術は、常に対象物の精神の探求が表現されている。激しい色彩によって描かれた対象の内面が立ち顕れる作品群は、多くの鑑賞者に深い感銘をもたらすだろう。




「オスカー・ココシュカ―人々と動物の肖像」展は、2014年1月19日まで開催。(月曜、12月25日、1月1日休館)
ボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館 Museum Boijmans Van Beuningen
Museumpark 18-20
3015 CX Rotterdam
the Netherlands
www.boijmans.nl/en/
開館時間:
火曜日~日曜日 11:00-17:00
休館日:
毎週月曜日及び1月1日、4月27日、12月25日

2013年9月24日火曜日

レイノルド・レイノルズ「ロスト」 ハーグ「民衆宮殿」展

Stills: Reynold Reynolds, The Lost, 2013, 7-channel film installation. Courtesy Reynold Reynolds/West
Foto locatie: Jhoeko

1930年代にベルリンで制作されていたある娯楽映画。他の多くの作品と同様、 ナチスの検閲により撮影は禁止され、映画はついぞ日の目を見る事がなかった。近年、この映画の存在を偶然知ったアーティスト、レイノルド・レイノルズ (1966年アラスカ生まれ)は、3年を費やして映画の修復プロジェクトに取り組んできた。この作品「ロスト」が、関連の品々とともに、現在オランダ・ハーグの発電所を会場とした「民衆宮殿(volkspaleis)」展で展示されている。

オリジナルの映画についての調査は20人の専門家とともに行われた。映像の他にスケッチ、絵コンテ、当時の制作者のノート、撮影に使われた衣装や小道具も含まれる。映像のほぼ全てがモノクロの16ミリフィルムを使い世界各地で撮影され、撮影の一部は一般公開される中でも行われた。二時間半の映像が2500㎡の会場に設置された7つの巨大なスクリーンに分割されて上映されている。

物語は、ベルリンのとあるキャバレーで暮らすライター、写真家などの芸術家、キャバレーのダンサーらを巡るドラマである。音楽、酒、同性愛などの「享楽的な生活」と、それを忌み嫌うナチス政権下の警察当局とのせめぎあいの様子が、フィルム映像独特の撮影手法を駆使しながら断続的に映し出される。映像には、当時タブー視されていた要素や奇抜な演出が詰め込まれている。そして、検閲など重苦しい空気の中で暮らしていた芸術家らの心の葛藤が生々しく描き出され、現実離れした妄想にすすんでいく・・・。

発電所という雑然とした会場 、複数のスクリーンが同時に目に入る展示構成、映像の展開が時系列でなく場面が交錯していたり、出演者がすりかわったり・・・見るものにとって「軸」を見失いやすいので、時間をかけて、じっくりと作品の世界を味わう必要がある。それでも、映し出される映像や小道具等の展示物が、30年代のオリジナルなのか、アーティスト レイノルド・レイノルズによって再現されたものなのかという謎は、解けないまま残る。まるで7つの映像や展示されている小道具全体が一つの大きな渦となって鑑賞者を巻き込みながら、 戦前のベルリンと現代の間をゆっくり回転し続けているかのようだ。

「この作品に終わりはない」と展覧会を企画した画廊ウェストのマリ・ジョゼ・ソンデアイカーは語る。彼女の画廊は、この作品には白過ぎ、小さすぎると判断し、発電所の建物にたどり着いたという。 画廊など従来の枠組みから飛び出した 「民衆宮殿」展は昨年に続き二度目の開催。閉鎖的な美術界から踏み出して、一般の人々に歩み寄ろうという画期的な試みだ。

「民衆宮殿」は10月6日まで。 開館日は毎晩イベントが開催されている。



「民衆宮殿」 Volkspaleis
E.On Elektriciteitsfabriek
Constant Rebecquepln 20
2518 RA Den Haag
www.volkspaleis.org/2013/
ウェスト West
Groenewegje 136
2515 LR, Den Haag
The Netherlands
+31 (0)70 392 53 59
www.west-denhaag.nl
「民衆宮殿」 開催期間:
2013年9月13日 — 10月6日
水 — 日曜日 14:00 — 20:00

2013年9月17日火曜日

ムンクの生誕150年記念展開催

図1 Edvard Munch: The Scream, 1893,
Tempera and crayon on cardboard,
91 x 73.5cm, National Museum of Art,
Architecture and Design, Oslo,
© Munch Museum / Munch-Ellingsen Group /
BONO, Oslo 2013,
Photo: © Børre Høstland, National Museum,
© Munch-museet / Munch-Ellingsen Gruppen /
BONO
2013年はエドヴァルド・ムンクの生誕150年にあたり、母国ノルウェーではムンク・イヤーに沸いている。首都オスロにあるオスロ美術館とムンク美術館では、「ムンク150」と題した展覧会が共催されている。ムンクが「私の子どもたち」と呼び、2万点以上残した作品の中から絵画220点、版画等50点を選出し、ムンクの画業を振り返る。

ムンクは生と死を主題とした作品で知られるが、それは幼い頃に経験した肉親との死別に起因する。母親はムンクが5歳の時に、姉は13歳の時に亡くなった。医師であった父はふたりを失ったことにより精神を病んでしまう。ムンクの初期作品《病める子》に描かれた少女は、結核で亡くなった最愛の姉である。次々に愛する家族を失った失望感や孤独、また自身も病弱であるために常につきまとう病や死への不安や恐怖などは彼の作品に大きな影響を与えた。

1892年にドイツのベルリンに移住すると、ライフワークとなる「生命のフリーズ」の制作を開始する。そこに含まれる作品には、愛や裏切り、不安、嫉妬、死などが描かれている。このフリーズの一部として《叫び》(図1)《吸血鬼》《マドンナ》などの代表作が生み出された。ムンクは生命のフリーズを全体として生命のありさまを示すような一連の装飾的な絵画として考え、それぞれ独立した作品ではなく、ひとつの交響曲のように共鳴しあうものとして制作した。1902年のベルリン分離派による展覧会において、それまでに描いた22点の作品で構成される「生命のフリーズ」を発表した。「ムンク150」展では、このフリーズが約110年ぶりに再現されている。


図2 Edvard Munch: The Sun, 1911, Olje på lerret, 455 x 780 cm, Universitetet i Oslo, Aulaen,
© Munch-museet / Munch-Ellingsen Gruppen / BONO 2013,
Photo: © Munch-museet , © Munch-museet / Munch-Ellingsen Gruppen / BONO
1909年、45歳の時にムンクはノルウェーに帰郷した。長い外国滞在の後に再び目にした故郷の自然は、ムンクに調和と古典的な作品への興味をもたらした。1916年、オスロ大学の講堂に11面からなる装飾壁画「アウラ」を完成させた。講堂正面に配された作品には太陽が力強く光を放ち(図2)、そのほかの壁面には太陽の光に祝福されるノルウェーの豊かな自然が描かれている。この作品の完成以後もチョコレート工場の装飾画「フレイア・フリーズ」や、オスロ市庁舎のための装飾画など精力的に活動を続けた。絶望に苛まれていた《叫び》から希望に満ちた《太陽》を描くに至ったムンクは、1944年1月23日に80年の生涯を閉じた。

本展の展示会場は二会場に分かれている。1882-1903年の作品はオスロ美術館、1904-1944年までの作品はムンク美術館に展示されている。「ムンク150」展は2013年10月13日まで。
オスロ美術館 National Gallery of Norway
Universitetsgata 13
0164 Oslo, Norway
+47 21 98 20 00
www.nasjonalmuseet.no/en/
ムンク美術館 Munchmuseet
Tøyengata 53,
0578 Oslo, Norway
+47 23 49 35 00
www.munch.museum.no
開館時間(共通):
月-水、金-日 10:00-17:00
木 10:00-19:00

2013年9月6日金曜日

“ルーヴルの女神”「サモトラケのニケ」、大規模修復スタート

©Victoire de Samothrace, Musée du Louvre
パリ・ルーヴル美術館のギリシャ彫刻の傑作「サモトラケのニケ」と展示エリアの修復が、9月から始まりました。
「ニケ」は勝利の報を伝える女神のこと。紀元前2世紀に作られ、1863年にエーゲ海のサモトラキ島で発見されました。羽を広げたまま船の船首部分に舞い降りた瞬間をとらえた姿は、力強さと美しさを兼ね備え、見るものの心を奪います。

世界中から集まる美術ファンにとって、修復作業のためにニケ像がしばらくの間鑑賞できなくなるのは残念なことですが、本来の大理石の美しさを取り戻し、来年春には再び登場する予定です。
また、ニケの素晴らしさを引き立たせているのが「ダリュの階段」を含めた展示スペースです。ルーヴルを訪れた人は、この階段の頂上に立つ「女神」の姿を目にします。そして、この階段を一歩づつのぼりながら最上段のニケ像に近づきます。まさに傑作の展示にふさわしい環境が作り出され、ルーヴル美術館で最も成功した演出ともいわれています。

この階段を含め、天井や壁も含めた展示エリア全体も修復され、2015年に完成する予定です。
ニケ修復についての詳細は、以下のルーヴル美術館の特別ウェブサイト(日本語版)に掲載されています。またルーヴル美術館では、この歴史的修復工事のために個人からの寄付キャンペーンをスタートさせました。ご関心のある方は是非ウェブサイトをご参照ください。
www.louvresamothrace.fr/jp/

日本テレビホールディングスも「サモトラケのニケ」修復を支援しています。
www.ntvhd.co.jp/pressrelease/2013/20130904.html

2013年8月23日金曜日

「フェルメールと音楽―愛と余暇の芸術」展


もしも音楽が愛の糧であるならば、奏で続けよ。
―――シェークスピア『十二夜』

17世紀のオランダでは、画家たちは音楽に強い興味を抱いていた。オランダ絵画黄金時代に制作された絵画のうち一割以上が音楽をモティーフに描かれ、ヨハネス・フェルメールにいたっては現存する36点中12点にものぼる。ロンドンで開催中の「フェルメールと音楽」展では、そのうち5点のフェルメール作品に加え、ヘラルト・テル・ボルフ、ハブリエル・メツー、ヤン・ステーン、ピーテル・デ・ホーホなど同時代の画家たちの音楽にまつわる作品を展示している。

オランダにおいて音楽は複雑で高尚な芸術というものではなく、全ての階級の人々にとって身近な娯楽であった。彼らは自分たちで演奏したり歌ったりできる室内楽のようなシンプルで親しみやすいものを好み、友人宅に集まって演奏会をしばしば行うなどしていた。生活に密接した音楽は、絵画のなかでもさまざまな象徴として描かれた。肖像画では楽器や楽譜は描かれた人物の才能や階級を示し、日常生活の一場面を切り取った作品では描かれた人々の教養や社会的地位を示した。


さらに音楽はハーモニー(調和)が重要であることから、男女間の恋愛と結び付けられるようになった。とくに音楽のレッスンは未婚の若い男女が一緒にいても不自然でない数少ない情景として人気があった。メツーの作品では、音楽教師である男性がレッスンを中断して若い女性にワインを勧めている。(図1)背景にはシェークスピアの恋愛喜劇『十二夜』を描いた絵画がカーテンから覗いており、これからふたりに訪れる出来事を予感させる。

図1
Gabriel Metsu (1629 - 1667)
A Man and a Woman seated by a Virginal
about 1665, oil on oak
38.4 x 32.2 cm
The National Gallery, London, Inv. NG839
© The National Gallery, London
図2
Johannes Vermeer (1632 - 1675)
The Music Lesson
about 1662-3, oil on canvas
73.3 x 64.5 cm
Royal Collection Trust
© Her Majesty Queen Elizabeth II 2013

図3
Johannes Vermeer (1632 - 1675)
A Young Woman seated at a Virginal
about 1670-2, oil on canvas
51.5 x 45.5 cm
The National Gallery, London, Inv. NG2568
© The National Gallery, London


フェルメールが描いた《音楽のレッスン》(図2)では、ヴァージナルを演奏する女性とそれに聴きいる男性が描かれている。女性は演奏に集中しているようにみえるが、頭上の鏡に映る彼女の顔は男性のほうを向き、彼に心を寄せている様子がわかる。ヴァージナルの蓋には「音楽は歓びの伴侶、哀しみの薬」と記され、彼女の心情が暗示されている。当時、ヴァージナルは女性の声の象徴であり、ヴィオラは男性の声の象徴とされていた。女性の背後にはヴィオラ・ダ・ガンバが横たわり、ヴァージナルに合わせてハーモニーを奏でられるのを待っている風景。静謐な画面の中に男女のドラマが隠されている。

また、画家たちは鑑賞者を単なる傍観者としてではなく、絵画のなかでおこなわれる恋愛劇の当事者として画面に引き込もうと工夫し始める。フェルメールの《ヴァージナルの前に座る若い女》(図3)やヘラルト・ダウの《クラヴィコードを弾く女性》に描かれた女性は鑑賞者に魅力的な視線を投げかけ、横にあるヴィオラを手に取って演奏するよう誘っている。

音楽は17世紀オランダ絵画を読み解く鍵といえるだろう。

なお、本展覧会では17世紀のヴィオラやギター、ヴァージナルなどの展示に加え、同時代の音楽の演奏会が毎週木曜日から土曜日に開催されている。




「フェルメールと音楽―愛と余暇の芸術」展は2013年9月8日まで。

ロンドン・ナショナル・ギャラリー The National Gallery, London
Trafalgar Square,
London WC2N 5DN
The United Kingdom
+44 (0)20 7747 2885
http://www.nationalgallery.org.uk/
開館時間:
月-木、土、日 10:00-18:00
金 10:00-21:00

2013年8月12日月曜日

歴史とデザインが隣り合わせのロイドホテル&文化大使館 (アムステルダム)


Lloyd Hotel & Cultural Embassy

一つ星から五つ星の客室が一つのホテルに混在するというスタイルは、ロイドホテルの他に類をみない。客室の中は、7,8人用の長いベッドとグランドピアノが置かれたり、コンサート用の防音設備を備えたり、バスタブとブランコを中心に置いた天井裏や、巨大なキッチンがあったり。オランダらしい遊び心あふれるデザインで埋め尽くされている。
可動式のインテリアも多く、廊下に置かれた家具も自由に使ってよい。一般のホテルとは逆に、浴室とトイレを、あえて部屋の中心などの目に触れる場所に備えたこれらの客室では、備え付けの間仕切りを出し入れしたり、ベッドを横目にシャワーを浴びたり、浴槽につかるという、普段の生活とは全く違う時間と空間の使い方を提供、提案してくれる。




五つ星の部屋。浴室部分のデザインはMVRDV。

アムステルダム港東側の波止場にあるロイドホテルの名前の由来は、建物の元々の所有主である船舶会社ロイド。南米に向かう移民の健康診断・宿泊場として建設され、当時は一日最大900人が寝泊まりしたそうだ。1935年にロイド社が倒産した後、ドイツの占領下におかれていた第二次世界大戦中には、対独抵抗地下運動により捕らえられた人々を収容する場所として使用された。終戦後は一般の刑務所として、また後に少年院として使用された期間を経て、80年代後半からはアーティストのスタジオスペースとして利用されるようになった。


アーティストが制作、暮らし、交流していた1989年から1999年。彼らによって、それまで陰鬱で閉塞的な印象を作り出していた壁が取り払われ、それまでとは一転して開放的な空間と雰囲気が生まれ、様々な人が行き交うようになったという。アーティスト達の開放的で独創的な精神は、ホテルの創始者であるスザンヌ・オクセナー、オットー・ナンにより、現ロイドホテル&文化大使館 Lloyd Hotel & Cultural Embassyに受け継がれ、様々な形で建物のあちこちに顔をのぞかせている。

建物をホテル用に改築するに際して最重要視されたことは、「暗い歴史からの解放」、「空間を生かしつつ遊びの感覚を入れる」ことであった。オランダの建築集団MVRDVは、建物の中央部分を吹き抜けにし、明るく開放的な空間を作り出した。建物内では、文化大使館というだけあって常に現代美術、デザイン作品に囲まれる。一例として、最上階にはスーチャン・キノシタの作品が、地元でも評判の高いカフェ&レストラン入り口にはアムステルダム在住の作家、渡部睦子によるインスタレーション「LLOYD LIFE」がある。さらにカフェ上層部には展示やワークショップのためのスペースと図書館が設けられていて、来館者は自由に歩き回ることができる。 デザインとアートが集約され、五感で体験する事ができるロイドホテル&文化大使館。歴史を踏まえ尊ぶその姿勢と発想に魅了された。

*館内の写真へはこちらをクリックしてください。

ロイドホテル&文化大使館 Lloyd Hotel & Cultural Embassy
Oostelijke Handelskade 34
1019 BN Amsterdam
The Netherlands
http://www.lloydhotel.com
t: +31205613636