2013年2月28日木曜日

リヒテンスタイン回顧展

Roy Lichtenstein, Whaam!,1963, Tate. © Estate of Roy Lichtenstein/DACS 2012

アメリカのポップ・アートの中心人物、ロイ・リキテンスタインの回顧展が、ロンドンのテート・モダンで2月21日から開催されている。1997年に73歳で亡くなって以降、初めての大規模な回顧展となる。初期から晩年までの作品125点を集め、美術と大衆文化の境界を揺るがしたリキテンスタインの画業を振り返ることができる。

リキテンスタインは漫画の一コマを拡大したような表現スタイルで知られている。彼が活躍した1960年代は、アンディ・ウォーホルらが大衆文化や身の回りの都会風景、あるいはマスメディアや広告の世界に取材して作品を制作しはじめた時代である。



Roy Lichtenstein, Oh, Jeff…I Love You, Too…But…, 1964, 
Collection Simonyi © Estate of Roy Lichtenstein/DACS 2012
1962年、リキテンスタインはニューヨークのレオ・キャステリ画廊で、人々の芸術に対する高尚なイメージを覆す衝撃的な作品を発表した。それは、《見て、ミッキー》という作品である。ディズニーの有名なキャラクター、ミッキー・マウスとドナルド・ダックが絵画作品として描かれている。強調された線、単純な色彩など漫画が持つ特徴をそのままに、このアニメキャラクターたちを巨大なカンバスに油彩で描き出した。ここで彼は、世の中に大量に出回る大衆的な印刷物である絵本の挿絵を、芸術作品へと変換してみせたのである。

彼の作品は、モティーフと描き方のせいで、しばしば単に印刷物を拡大しただけのものだと誤解される。だが、本当にそうだろうか。

たとえば、彼の最も重要な作品のひとつである《ワーム!》を見てみよう。この作品は1962年に出版されたコミック『戦争の全てのアメリカ人』収録の「スター・ジョッキー」という戦闘機パイロットが主役の作品の1コマである。

モティーフとなったコミックのシーンと比べると、背景を排除され、線描と色彩も整理されて、よりインパクトのある構図に変えられている。細部を見ると、印刷物特有の小さな点(ドット)が見えるが、さらに注意深く観察すると、これら正確に配置されたドットは機械印刷ではなく、すべて手作業で描かれている。リヒテンスタインはモティーフを大衆的な印刷物から借用しながらも、変更を加え、手作業で描くことによって、ただ一つしかない絵画作品に仕上げている。

回顧展ではそのほかにも、女性のヌードを描いたものや中国風の風景画など、あまり知られていない作品も展示されている。美術作品を独自の作風で描き変える「美術史上からの引用」シリーズでは、オリジナリティを絶対視する近代芸術に疑問を投げかける挑戦的な姿もうかがえる。この回顧展はリキテンスタインのさまざまな側面を知るよい機会を与えてくれるだろう。

リヒテンスタイン回顧展は2月21日から5月27日まで開催(休館日なし)。
テート・モダン Tate Modern
Bankside
London SE1 9TG
United Kingdom
http://www.tate.org.uk/visit/tate-modern
開館時間:
日曜日-木曜日 10:00-18:00、金曜日、土曜日 10:00-22:00
休館日なし

2013年2月4日月曜日

「天才」ダリ – ポンピドゥー・センター



特異な世界観を表現し、長い口ひげに代表される奇抜な外見と数々のスキャンダルで語られる20世紀の芸術家サルバドール・ダリ。現在、ダリの大規模な回顧展がパリのポンピドゥー・センターで開催されている。絵画、素描、立体作品だけでなく、写真や映画、ダリが出演したテレビ番組など200点もの点数が出品されている。


数ある傑作のひとつに「柔らかい時計」としても呼ばれる≪記憶の固執≫があげられる。この作品は現実と夢が奇妙に混ざり合う世界を卓越したテクニックで描いている。ダリの作品の中で最も知られたものであるが、実際に目の前にするとあまりの小ささに驚かされる。画面の大きさはたった24x33cmしかない。その小さな画面には、ダリのアトリエがあったポルト・リガトの海辺を背景に、現実世界には存在しえないだらりと柔らかい時計と肉塊のようなダリの顔が配されている。長いまつげは、今にも動き出しそうな昆虫を連想させる。絵画は「一般的には具体的な非合理性と想像される世界を色彩を使って手書きした写真」であると言ったダリの絵画観が端的に表われている作品である。


展覧会の後半では、ダリの世界にさらに入り込める仕掛けがなされている。それはアメリカの映画女優メイ・ウエストからインスピレーションを受けて制作されたインスタレーションである。この作品は彼女の肖像画を、唇をかたどった椅子や鼻の形をした家具、髪をカーテンで表現するなどして立体的な部屋に再構築したものである。ここで観客は文字通り作品の中に足を踏み入れ、自分の姿が作品の中に入り込んだ写真を収めることができる。

ダリの独創的な作品は一度見ると強く記憶に残るが、彼の奇抜な外見もまた人々に強烈な印象を与える。ぴんと跳ね上がった口ひげが特徴的な彼の顔は、もしかしたら彼の作品よりも有名かもしれない。自己演出に長けたダリは、自らを「天才」と称して常識から逸脱した行動をとり、新聞やテレビなどのメディアに次々と話題を提供した。商業的なものやショウビジネスを嫌う芸術家たちのなかで、ダリの積極的なメディアへの露出は注目を浴び、彼の名声の確立に重要な役割を果たした。しかしながら、我々は彼が作り上げた「天才」ダリの姿を信じ込まされてはいないだろうか。

本展覧会では、作り上げられた「天才」ダリのイメージに疑問を投げかけ、丁寧に作品を辿ることで本来のダリの姿を浮き彫りにしようとしている。

ダリ展は3月25日まで開催。(火曜日休館)
ポンピドゥー・センター  Centre Pompidou
19 Rue Beaubourg
75004 Paris
France
http://www.centrepompidou.fr/en
開館時間:
11:00-23:00  休館日 火曜