2013年9月24日火曜日

レイノルド・レイノルズ「ロスト」 ハーグ「民衆宮殿」展

Stills: Reynold Reynolds, The Lost, 2013, 7-channel film installation. Courtesy Reynold Reynolds/West
Foto locatie: Jhoeko

1930年代にベルリンで制作されていたある娯楽映画。他の多くの作品と同様、 ナチスの検閲により撮影は禁止され、映画はついぞ日の目を見る事がなかった。近年、この映画の存在を偶然知ったアーティスト、レイノルド・レイノルズ (1966年アラスカ生まれ)は、3年を費やして映画の修復プロジェクトに取り組んできた。この作品「ロスト」が、関連の品々とともに、現在オランダ・ハーグの発電所を会場とした「民衆宮殿(volkspaleis)」展で展示されている。

オリジナルの映画についての調査は20人の専門家とともに行われた。映像の他にスケッチ、絵コンテ、当時の制作者のノート、撮影に使われた衣装や小道具も含まれる。映像のほぼ全てがモノクロの16ミリフィルムを使い世界各地で撮影され、撮影の一部は一般公開される中でも行われた。二時間半の映像が2500㎡の会場に設置された7つの巨大なスクリーンに分割されて上映されている。

物語は、ベルリンのとあるキャバレーで暮らすライター、写真家などの芸術家、キャバレーのダンサーらを巡るドラマである。音楽、酒、同性愛などの「享楽的な生活」と、それを忌み嫌うナチス政権下の警察当局とのせめぎあいの様子が、フィルム映像独特の撮影手法を駆使しながら断続的に映し出される。映像には、当時タブー視されていた要素や奇抜な演出が詰め込まれている。そして、検閲など重苦しい空気の中で暮らしていた芸術家らの心の葛藤が生々しく描き出され、現実離れした妄想にすすんでいく・・・。

発電所という雑然とした会場 、複数のスクリーンが同時に目に入る展示構成、映像の展開が時系列でなく場面が交錯していたり、出演者がすりかわったり・・・見るものにとって「軸」を見失いやすいので、時間をかけて、じっくりと作品の世界を味わう必要がある。それでも、映し出される映像や小道具等の展示物が、30年代のオリジナルなのか、アーティスト レイノルド・レイノルズによって再現されたものなのかという謎は、解けないまま残る。まるで7つの映像や展示されている小道具全体が一つの大きな渦となって鑑賞者を巻き込みながら、 戦前のベルリンと現代の間をゆっくり回転し続けているかのようだ。

「この作品に終わりはない」と展覧会を企画した画廊ウェストのマリ・ジョゼ・ソンデアイカーは語る。彼女の画廊は、この作品には白過ぎ、小さすぎると判断し、発電所の建物にたどり着いたという。 画廊など従来の枠組みから飛び出した 「民衆宮殿」展は昨年に続き二度目の開催。閉鎖的な美術界から踏み出して、一般の人々に歩み寄ろうという画期的な試みだ。

「民衆宮殿」は10月6日まで。 開館日は毎晩イベントが開催されている。



「民衆宮殿」 Volkspaleis
E.On Elektriciteitsfabriek
Constant Rebecquepln 20
2518 RA Den Haag
www.volkspaleis.org/2013/
ウェスト West
Groenewegje 136
2515 LR, Den Haag
The Netherlands
+31 (0)70 392 53 59
www.west-denhaag.nl
「民衆宮殿」 開催期間:
2013年9月13日 — 10月6日
水 — 日曜日 14:00 — 20:00

2013年9月17日火曜日

ムンクの生誕150年記念展開催

図1 Edvard Munch: The Scream, 1893,
Tempera and crayon on cardboard,
91 x 73.5cm, National Museum of Art,
Architecture and Design, Oslo,
© Munch Museum / Munch-Ellingsen Group /
BONO, Oslo 2013,
Photo: © Børre Høstland, National Museum,
© Munch-museet / Munch-Ellingsen Gruppen /
BONO
2013年はエドヴァルド・ムンクの生誕150年にあたり、母国ノルウェーではムンク・イヤーに沸いている。首都オスロにあるオスロ美術館とムンク美術館では、「ムンク150」と題した展覧会が共催されている。ムンクが「私の子どもたち」と呼び、2万点以上残した作品の中から絵画220点、版画等50点を選出し、ムンクの画業を振り返る。

ムンクは生と死を主題とした作品で知られるが、それは幼い頃に経験した肉親との死別に起因する。母親はムンクが5歳の時に、姉は13歳の時に亡くなった。医師であった父はふたりを失ったことにより精神を病んでしまう。ムンクの初期作品《病める子》に描かれた少女は、結核で亡くなった最愛の姉である。次々に愛する家族を失った失望感や孤独、また自身も病弱であるために常につきまとう病や死への不安や恐怖などは彼の作品に大きな影響を与えた。

1892年にドイツのベルリンに移住すると、ライフワークとなる「生命のフリーズ」の制作を開始する。そこに含まれる作品には、愛や裏切り、不安、嫉妬、死などが描かれている。このフリーズの一部として《叫び》(図1)《吸血鬼》《マドンナ》などの代表作が生み出された。ムンクは生命のフリーズを全体として生命のありさまを示すような一連の装飾的な絵画として考え、それぞれ独立した作品ではなく、ひとつの交響曲のように共鳴しあうものとして制作した。1902年のベルリン分離派による展覧会において、それまでに描いた22点の作品で構成される「生命のフリーズ」を発表した。「ムンク150」展では、このフリーズが約110年ぶりに再現されている。


図2 Edvard Munch: The Sun, 1911, Olje på lerret, 455 x 780 cm, Universitetet i Oslo, Aulaen,
© Munch-museet / Munch-Ellingsen Gruppen / BONO 2013,
Photo: © Munch-museet , © Munch-museet / Munch-Ellingsen Gruppen / BONO
1909年、45歳の時にムンクはノルウェーに帰郷した。長い外国滞在の後に再び目にした故郷の自然は、ムンクに調和と古典的な作品への興味をもたらした。1916年、オスロ大学の講堂に11面からなる装飾壁画「アウラ」を完成させた。講堂正面に配された作品には太陽が力強く光を放ち(図2)、そのほかの壁面には太陽の光に祝福されるノルウェーの豊かな自然が描かれている。この作品の完成以後もチョコレート工場の装飾画「フレイア・フリーズ」や、オスロ市庁舎のための装飾画など精力的に活動を続けた。絶望に苛まれていた《叫び》から希望に満ちた《太陽》を描くに至ったムンクは、1944年1月23日に80年の生涯を閉じた。

本展の展示会場は二会場に分かれている。1882-1903年の作品はオスロ美術館、1904-1944年までの作品はムンク美術館に展示されている。「ムンク150」展は2013年10月13日まで。
オスロ美術館 National Gallery of Norway
Universitetsgata 13
0164 Oslo, Norway
+47 21 98 20 00
www.nasjonalmuseet.no/en/
ムンク美術館 Munchmuseet
Tøyengata 53,
0578 Oslo, Norway
+47 23 49 35 00
www.munch.museum.no
開館時間(共通):
月-水、金-日 10:00-17:00
木 10:00-19:00

2013年9月6日金曜日

“ルーヴルの女神”「サモトラケのニケ」、大規模修復スタート

©Victoire de Samothrace, Musée du Louvre
パリ・ルーヴル美術館のギリシャ彫刻の傑作「サモトラケのニケ」と展示エリアの修復が、9月から始まりました。
「ニケ」は勝利の報を伝える女神のこと。紀元前2世紀に作られ、1863年にエーゲ海のサモトラキ島で発見されました。羽を広げたまま船の船首部分に舞い降りた瞬間をとらえた姿は、力強さと美しさを兼ね備え、見るものの心を奪います。

世界中から集まる美術ファンにとって、修復作業のためにニケ像がしばらくの間鑑賞できなくなるのは残念なことですが、本来の大理石の美しさを取り戻し、来年春には再び登場する予定です。
また、ニケの素晴らしさを引き立たせているのが「ダリュの階段」を含めた展示スペースです。ルーヴルを訪れた人は、この階段の頂上に立つ「女神」の姿を目にします。そして、この階段を一歩づつのぼりながら最上段のニケ像に近づきます。まさに傑作の展示にふさわしい環境が作り出され、ルーヴル美術館で最も成功した演出ともいわれています。

この階段を含め、天井や壁も含めた展示エリア全体も修復され、2015年に完成する予定です。
ニケ修復についての詳細は、以下のルーヴル美術館の特別ウェブサイト(日本語版)に掲載されています。またルーヴル美術館では、この歴史的修復工事のために個人からの寄付キャンペーンをスタートさせました。ご関心のある方は是非ウェブサイトをご参照ください。
www.louvresamothrace.fr/jp/

日本テレビホールディングスも「サモトラケのニケ」修復を支援しています。
www.ntvhd.co.jp/pressrelease/2013/20130904.html